旅の思い出33「穏やかな時間、本村地区」

瀬戸内国際芸術祭④

地中美術館からバスに乗った我々は、作品展示が多い本村という地域に向かう事にした。

やたら低い鳥居

途中バスの乗り換えで見かけた風景に心を奪われた私は、荷物をメンバーYに預け海辺のやたら低い鳥居を撮りまくった。気が付くとメンバーKも荷物をメンバーYに預けて撮影している。我々の旅にしては珍しく空は晴れ渡り、瀬戸内の海は驚く程穏やかだった。我々は、かつて経験した事が無い程ゆっくり流れる時間を感じていた。バスが到着したため慌ててバスを待つ列に戻った我々は、強制的に荷物番をさせられたメンバーYの文句を永遠に聞かされる事になる(旅が終わって数ヶ月経つが、メンバーYは今だにこの時の文句を繰り返している)。

本村の町並み

この地域には「家プロジェクト」と呼ばれる、古い民家を改造してその家の空間そのものを利用した作品が複数ある。前回も書いたがこれらの作品の撮影は許可されていない。この目で見た感動を記録として残したい私には歯痒い時が流れたが、穏やかな気候とどこか懐かしい建物に癒されて行く気がした。いつも時間との闘いで時には施設の人に迷惑をかけてしまう我々であったが、この直島に来てから自分でも驚く程呑気に時間を過ごしている気がする。地域や気候が我々の歩みさえものんびりさせてしまうのかもしれない。
この地域を歩き回り、様々な家プロジェクトを観た我々だったが、私個人の感性を刺激したのが「角屋」という作品だった。ほの暗い民家の居間部分に水を入れ、その中にカウントし続けるLED掲示板を無数に配置した作品だ。この築200年を数えるという素晴らしい民家の空間そのものも素晴らしく、闇に浮かぶLEDの無機質なカウンターがこの家が辿ってきた歴史を物語っており、作品を眺めていると不思議と気持ちが落ち着いてくる気がした。

ほぼ民家のGarden

昨晩からろくなモノを食べず睡眠も充分ではないまま歩き回っていた我々だったが、さすがに空腹には勝てずこの地域に数件しか無い飲食店に向かう事にした。向かったのは、港のすぐ側にあるGardenというカフェ・レストランだ。あからさまに普通の民家風の建物の庭に廻ると店の入り口があり、普通の民家の縁側の前に大量の靴が脱ぎ捨ててあった。…どうやら縁側から入るようだ。途方に暮れた我々は、普通の民家の和室を埋め尽くす客の量に愕然とした。改めて見ても普通の座敷で、黙々と食事する人々の群れは、地域の集会所で地域の寄り合いでも行われているかのようだった(寄り合いのように賑やかな声は聞こえず静まり返っていたが)。縁側で立ち尽くす我々に気付いた店の人が、「あと40分待ちですがそれでも良ければ…」と店に上げてくれた。これ以上歩き回る元気の無い我々は、とにかく座りたかったし改めて店を探す気になれなかった。座敷席が一杯だったので、我々3人は隣の洋室(個室)に通された。フローリングの床にはチェアとソファーがあり、これまでで最も穏やかで呑気な時間が流れた。皆カレーを注文したが、あまりの客の多さにご飯を炊き直しているという話で1時間待ちは覚悟しなければならない様子だ。キッチンの慌ただしい音を遠くに聞きながら肘掛けの椅子に凭れた私(と他の2人のメンバー)は、いつしか微睡みの中に居た…


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