旅の思い出35「素晴らしい家プロジェクトの数々」

瀬戸内国際芸術祭⑥

不満を抱えた猫ハンターを含めた我々3人は、再び本村地区に戻ってきた。
相変わらず猫は見つからない…と思った矢先、メンバーYがうどん屋の前で猫を発見、メンバーK(猫ハンター)の目の色が変わった。さっきまでの不満が嘘のように猫を激写し始めた。
ようやくメンバーの空気が軽くなったが、猫ハンターは自分の気が済むまでその場所を動かない。私は一服する事にした。相変わらず(我々の旅にしては珍しく)穏やかな天気で、石段の上に腰を降ろすとそのまま眠ってしまいそうだった…そういえば、いつもの事だが今回も睡眠不足だった。頭上には雲もなく、この町を取り囲む空間全てが“穏やか”で構成されているかの如き呑気さだ。もし自分が瀬戸内の島に生まれていたら、想像もつかない程呑気な男に育ってしまったかもしれない…

「南寺」の近辺

満足した猫ハンターを含めた我々3人は家プロジェクト「南寺」という作品に向かったが、順番待ちであと1時間は見れないと告げられた。この「南寺」はジェームズ・タレルというアーティストの作品で、元々寺があった場所に安藤忠雄氏が設計した「南寺」を建てたものだが、その外観はシンプルで美しく側にある公園には桜が植えてあり、名残りの桜越しの眺めは素晴らしいの一言に尽きる。
暫く時間をつぶす為に歩き出した我々は、家プロジェクト「石橋」に向かった。この「石橋」という作品は、塩問屋を営んでいた旧家をほぼそのまま利用して作られた作品で、驚いた事に千住博氏の「ザ・フォールズ」が展示されているという。千住博氏の「ザ・フォール」といえばヴェネチア・ビエンナーレで東洋人として初めて優秀賞を受賞した作品として有名で、私もまさか実物を見る機会があるとは夢にも思わなかった。「石橋」の建物はとにかく広く、しかも広大な庭はどこまでも美しかった。私は縁側に腰を降ろし、この家に住みたいと心から願った…それほど素晴らしい日本家屋だった。

おっちゃん再び

千住氏の作品は建物の奥の離れにあり、離れに入るとその暗さに驚いた。人工照明を全く使用せず、窓から差し込む自然光だけで滝の絵を展示しているのだ。斜めに走る日差しは「ザ・フォールズ」を部分的に照らし、幻想的とも云えるその空間は夢の中の光景のようだった。
再び「南寺」に戻った我々は、南寺の木の下に見覚えのあるオッサンの姿を見つけた。直島の名物オジさん“おっちゃん”である。
どうやら趣味の写真タイムのようである。聞けば名残りの桜に集まる鳥たちを激写していると笑顔で語ってくれた。相変わらずマイペースなおっちゃんである。
散々待ってようやく中に入る事が出来た「南寺」は、過去に経験した事がないように思われる程暗く、手探りでないと前に進めない程だった。我々鑑賞者は細長い建物の奥に座り、キュレーターの説明を聞くのだが、キュレーターの姿どころか隣に座るメンバーの顔すら認識出来ない程暗い。しかし、暫くして目が慣れると少しずつ前方に四角いスクリーンのようなモノがぼんやりと見えてきた。キュレーターの指示に従いゆっくりと立ち上がってその四角の方に近づくと、そこには淡く照明された空間があった。驚く事にその空間は我々が入った時からずっと淡く照明されていて、我々の目が闇に慣れて初めて認識出来たという事だ。目が慣れてみると建物の空間全体も認識出来るようになり、キュレーターが何故闇の中を平気で誘導出来たのかも理解出来た。
「南寺」で神秘的とも云える面白い体験をした我々は、いよいよ今夜の宿に向かう事になった…


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