旅の思い出39「不思議な豊島美術館」

瀬戸内国際芸術祭⑩

唐櫃岡集落での作品展示を後にした我々は、近くにある豊島美術館へと自転車を走らせた。

豊島美術館①

美術館の門をくぐった我々は、またしても野原にポツンと建つ建物の前に立ち尽くした。過去に直島で面食らった経験を反芻していた私には、この小さな建物がチケットセンターに過ぎない事を承知していた。センターの左側を見ると白く丸い大掛かりな子供の遊具のような建造物が地面から生えているかのように点在している。野原に伸びる白い道に沿って歩くと、それらはモダンな住居のようでも原初的な竪穴式住居のようにも感じる不思議な建造物だった。これら美術館全体を作ったのはアーティストの内藤礼氏と建築家の西沢立衛氏という事だが、この美術館全体を包む不思議な雰囲気は未来的であり、それでいて原初的な不思議な違和感を感じさせた。

豊島美術館②

道に沿って小高い山から見える瀬戸内の海を眺めた我々の眼前に一段と奇妙な流線型の建造物が現れた。
様子を伺っていると、鑑賞者は中に入る為に美術館が用意した上履き(?)に履き替えなければならないようだ。しかもカメラ的な私物(カバン等)は預かるという…徹底して撮影を禁止しているようだ。美術館が用意した上履き(?)は、靴底の極薄いモノで作品の中で歩き回ると床の感触を足の裏でリアルに感じる事が出来た。広い空間には2つの大きな穴が開いており、そこから見える空と木々の緑と光を絶妙に反射する白い内部空間とのコントラストが美しかった。

豊島美術館③

床の小さな穴からは極小さな水が溢れ、傾斜を付けられた室内の中央に少しずつ集まって大きな泉を作っていた。少しずつ集まって大きくなり、床をゆっくり滑っていく水の塊を眺めると不思議に気持ちが落ち着いた。「母型」というタイトルからも、我々が歩き回っているこの空間が子宮を表したモノである事が想像出来る(作家さんに聞いたワケではないが)。
とにかく不思議で落ち着く空間だった。
何より作品の中を歩き回るという行為自体、私には新鮮だった。

豊島美術館④

「母型」を出て次の待っていた不思議な鏡張りの建物の中に入ると、豊島美術館に関する土産物やちょっとした飲み物を出すカフェがあり、観光客で溢れている。私は愕然とした…私には美術館と銘打つからには建物の中で作品を鑑賞するものだという固定概念があったが、この豊島美術館は野外作品、否、周辺の棚田を含めた空間全てが美術館であり作品だったのだ。私はキツネにつままれたような気持ちで豊島美術館の門を出て、美術館を取り囲むように並んだ棚田を見回した。奥には白いモヤをたたえた瀬戸内の海も見え、遠くに船が行き来している様が霞んで見えた。

豊島美術館⑤

我々は、豊島美術館を含めた棚田全体を見回せる高台に昇った。自転車であぜ道を走り、驚く程急な坂を駆け上がった。高台からの眺めは絶景で、天気が快晴であれば瀬戸内の島々も見渡せただろうと残念な気持ちになっていた。そんな絶景を眺めながら、私は心の中で呟いていた「不思議な美術館で、不思議な体験をしたな…でも、アレだけで入場料1,500円は高くね…?」と…


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