旅の思い出41「捜査開始!」

瀬戸内国際芸術祭⑫

豊島を自転車で走る我々の間に不穏な空気が流れていた…
メンバーKが自転車に入れていた携帯電話を何処かで紛失し、彼女の中でも携帯電話を紛失した場所の記憶が曖昧だったからだ。
我々は昼食を摂る為に上陸した家浦港に戻りながら、手分けして訪れた場所を探し回った。倹約して使っていた電動アシスト付き自転車のバッテリー残量も残り少ない。私は坂道も緩やかなら自力でペダルを踏んで走り回った。自転車で1人になると、途端にこの島の住民を見かけなくなった。私が息を切らせて走っている呼吸音以外は鳥の声しか聞こえなくなった。まるで無人島の中を自転車で走っている気分だった。
探索の甲斐も無いまま合流した我々は家浦港に着き、とにかく昼食を摂る事にした。
昼食を摂りながら対策を話し合った我々は、メンバーKのキャリアであるソ◯トバ◯クに問い合わせる事にした。ソ◯トバ◯クでは紛失した携帯電話を携帯電話が発する電波を使って探索する事が出来るらしい。メンバーKと同じキャリアの私が“お客様センター”的な部署に問い合わせる事にした。電話で「友人が携帯電話を落としてしまって、探したいのですが目星が付かなくて…」的な事を説明すると担当者は「ご本人様でないと…」を繰り返した。個人情報に関わる事だから仕方ないと理解しながらも、「その本人が携帯落としとんねん…独りやったらどうやって連絡すんねん…」という煮え切らない思いが残った。
ソ◯トバ◯クの説明では半径5km圏内であれば場所を特定する事は可能だと云う…豊島の中を走り回って見つけられなかった今の我々には、その「半径5km」にすがるしか無かった。

家浦港の夕陽

ソ◯トバ◯クお客様センター的な部署の係の人から携帯電話が存在するであろうおおよその場所の住所を聞いてみると、そこは豊島美術館から唐櫃港にまたがる地域らしい。少なくとも唐櫃集落までは彼女は携帯電話を持っていたらしい。おおよその場所を聞いたメンバーKは、「私が落としたから、私一人で探す」と言って再び自転車にまたがり、今朝両膝を強打したとは思えない健脚で走り去った。残された私とメンバーYは、もの凄い速度で姿を消すメンバーKの後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
朝から霧をたたえていた海は晴れ渡り、傾き始めた太陽は水面を美しく照らした。
私とメンバーYは海を眺めながらぼんやり過ごすし、メンバーKの朗報を待つ事しか出来なかった。この旅で、我々にとって最もノンビリした時間が過ぎていった…メンバーKは別だが…


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